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インストラクターのためのフィールドガイド講座:その3「楼閣状熔岩樹型の生成プロセス」」

[更新日]: 2015年03月06日

インストラクターのためのフィールドガイド講座:その3「楼閣状熔岩樹型の生成プロセス」」

「楼閣状熔岩樹型の生成プロセス」」

日本洞窟学会火山洞窟学部
渡辺長敬

はじめに
 楼閣状熔岩樹型は腐朽木に熔岩が浸透して形成されたもので、横臥樹型か複合熔岩樹型内で形成されることが、現在迄の定説となっている。楼閣状熔岩樹型では明瞭な木目や年輪の鋳型、木材の主組織である導管、仮導管の組織にまで熔岩が浸透した鋳型が残されている。微細な組織に熔岩が侵入する為には、相応な圧力が必要であり、腐朽木ではこのような組織は劣化していて楼閣状の形態を形成することは困難と考え、樹木の炭化による組織変化と楼閣状熔岩樹型の関連性、その形成プロセスについて述べる。


1、樹木の性質と組織
 一般に樹木は針葉樹、広葉樹、単子葉材に区分される、富士山の植生帯や熔岩樹型の形態を考慮し、単子葉材の竹類(スズタケ)などのイネ科を削除し、ここでは針葉樹及び広葉樹の性質に付いて述べる。
1−1、針葉樹の性質と組織
 針葉樹の組織は仮導管、樹脂細胞、放射柔細胞で構成さていて、組織全体の97%を仮導管が占めている。仮導管細胞の長さは2mm〜6mmである。仮導管は水分や養分を運搬する役目で縦横に細胞壁で連結している。樹脂細胞はエピセリュウム細胞とチロイドを含む細胞間隙からできていて円筒形の樹脂導を形成するが多量な樹脂を含むと樹脂条、樹脂濃を形成する。
樹木には年輪があり針葉樹の細胞は春〜夏に急速に発達する、この時期に細胞は太く長い管状で柔らかいが、秋〜冬の細胞は発達が遅く、細く厚い管状で硬い。春材部は柔らかく広く、秋材部は硬く狭いため年輪は明瞭である。
主成分はセルローズで約90%を占め、Fe,P,Si,タンニン、その他で7〜10%で構成され、生木の場合の重量比は水分が80〜90%を占める。
1−2、広葉樹の性質と組織
 広葉樹は針葉樹に比べ高等な植物に属しているため、その組織構造は複雑で変化に富んでいる。広葉樹の組織細胞は導管(大導管、小導管)木繊維、放射組織で構成され、全体の95%を導管が占めている。導管細胞の長さは3mm〜8mmである。広葉樹は落葉することもあって、春材部〜秋材部への移行がゆるやかであるため年輪は針葉樹に比べて明瞭ではない。
樹木の強度は、曲げ、圧縮、剪断力ともに針葉樹に優る。主成分はセルローズが約90%以上を占め、Fe,P,Si、タンニン、アルカロイド、その他が7〜10%で構成されている。生木の場合の重量比は水分が90%を占める。
1−3、樹木の含水率と樹木の破壊
 樹木は前述のように導管、仮導管によって水分、養分を運搬し成長しているため成長時の含水率は92%〜97%である。樹木を伐採すると水分の発散が始まり水分移動による収縮で木口面に星割れをおこす。気乾状態(自然乾燥)では含水率30%〜40%が低域の極限でこれ以上含水率が下がることはない。絶乾状態(人口乾燥)では含水率5%〜10%が極限で導管、仮導管等の細胞
組織が収縮して最も樹木の強度が発揮される状態といえる。含水率0%では燃焼が始まり、炭化が進行する。燃焼と同時に細胞組織は破壊され完全燃焼した場合は7%〜10%の無機物質が
灰となって残る。酸素補給の少ない不完全燃焼の場合には組織の一部が破壊され炭化物(木炭)が
残る。木炭は炭化による水分の減少とともに導管、仮導管の細胞間隙の緊張が崩れ細胞の上下,左右方向に複雑なひび割れを生ずる。

1−4、樹木の腐朽
  樹木の破壊は燃焼、炭化の他腐朽によっても進行する、樹木の腐朽は水分量が多く、酸素補給が充分なほど進行しやすい。導管、仮導管に昆虫、微生物、菌類などが侵入し、その組織を破壊することによって進行するため腐朽した樹木は細胞組織が破壊されていることから崩れやすく炭化した場合は細胞間隙の緊張が保たれていないために強固な炭化物は形成されず、その形態は崩れた粉末状を呈する。

2、樹木の炭化と楼閣状熔岩樹型の関連性
 2−1、樹木の燃焼と炭化
  樹木は上記のように燃焼に伴い水分の極端な減少によって細胞間隙の緊張がくずれ細胞間隙に複雑なひび割れを生ずる。樹木は心材部ほど含水率は低く、辺材部ほど含水率は高い、このため辺材部の収縮率は高く、心材部ほど収縮率は低い。
このことにより、樹木の炭化に伴うひび割れは辺材部では大きく、心材部ほど細かい割れを生じる。樹木を高温燃焼するボイラー(燃焼温度470℃)で直径25cmの樹木(ウラジロモミ)の燃焼実験を行った結果、樹木は辺材部から燃焼が始まるが燃焼範囲は外周部の厚さ10mm〜15mm範囲で270℃〜470℃であった。(図1は470℃での辺材部と心材部の時間軸での温度変化を示す)樹木の心材部の温度は6℃(11月)であるが、燃焼が始まると急速な温度変化が見られるが上限は97.6℃がこれ以上は変化がない、外周部の燃焼開始から15分で心材部の温度は97.6℃に達した。高温の熔岩流に包まれた樹木は辺材部から急激に水分を奪われ急速に燃焼と炭化が進行し炭化した辺材部に割れを生じ、この割目に熔岩が浸透したものが、従来腐朽樹型と呼ばれるもので、この様な樹型は縦樹型や横臥樹型の側壁に多く残されている。

 2−2、水の物性変化

 2−2、水の物性変化
  水の物性は0℃以下では個体を形成、0℃を超え100℃迄が液体を形成、100℃を超えると気化する、ここ迄の水の物性は自然空間での物性である。しかし、高温・高圧条件ではさらに変化する。337.4℃、217atmに達すると水の物性は臨界水状態となり、これを超えると超臨界水状態となりその物性は水としての化学作用が最も極大値を示し、殆ど総ての物質を分解する能力を持つ。気温と気圧とをコントロールすることで様々な物性変化を利用しての資源開発が行われている。近年メタンハイドレートは固形物質であるため掘削は容易ではない。このため開発は高圧・低温で安定しているメタンハイドレート層の温度を上げる「加熱法」、圧力を下げる「減圧法」などで試験掘削が行われ、現在では減圧法が最も有効な手段とされている。

 2−3、熔岩流に密閉された樹木の超臨界
  複合熔岩樹型(複数の樹木で構成)のように樹木全体が高温の熔岩に包まれた場合複数の樹木水分量は樹木容積の90%を超える状態となっていて、高温でも酸素が供給されず有酸素燃焼は起こらない。この場合密閉空間で樹木の持つ水は高温高圧による水の物質変化による臨界状態に達する。樹木は臨界水によって分解されることとなり、その形質は残存しない。ここで重要なことは形成された熔岩樹型の内部に炭化物質、無機物質が残されていないことである。

2−3、熔岩流に密閉された樹木の超臨界

複合熔岩樹型(複数の樹木で構成)のように樹木全体が高温の熔岩に包まれた場合複数の樹木水分量は樹木容積の90%を超える状態となっていて、高温でも酸素が供給されず有酸素燃焼は起こらない。この場合密閉空間で樹木の持つ水は高温、高圧による水の物質変化による臨界状態に達する。樹木は臨界水によって分解されることとなり、その形質は残存しない。ここで重要なことは形成された熔岩樹型の内部に炭化物質、無機物質が残されていないことである。
 2−4、複合熔岩樹型における楼閣状熔岩樹型及び熔岩棚形成のプロセス熔岩によって密閉された樹木の水分は高温・高圧のもとで物性変化が進行することとなる。熔岩に包まれた初期は樹木周囲の熔岩はクラストを形成し樹型の周囲から水分が減少し「2−1」のプロセスで楼閣状樹型が形成される。
(図1)水の臨界点337.4℃、217atm付近に達すると水は亜臨界状態となり、気圧の高い超臨界水によって、熔岩は再溶融状態となって楼閣状熔岩樹型の上に滴り落ちて、熔岩棚を形成する(吉田胎内、船津胎内、十里木洞穴など)。より多くの樹木で形成された複合樹型ではさらに臨界状態は継続し、再溶融した熔岩は平坦な床面を形成している(吉田胎内No5)などに見られる。これらの現象は熔岩流の流れとともに進行することから、突然開口部が現れ熔岩樹型内部に酸素が供給された場合、樹型内部の臨界状態での圧力移動が起こり樹型内部の空洞天井部に圧力移動を示すパラレルラインの形成痕跡が見られる。
以上が複合熔岩樹型における楼閣状熔岩樹型及び熔岩棚形成のプロセスである。これらの現象は熔岩流の流れとともに系時的に進行することから類似した様々な現象が富士山周辺では観察できる。



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